2021年3月2日火曜日

青山学院大学へ<長編><無許可掲載> その1

ご無沙汰をしております。

卒業生からのリクエストを1年間放置した挙句、やっとのことで投稿する次第でございます。

これから書こうとする本人(仮にYくん)からのリクエストではないのですが、Yの友人であり、ウチの塾でともに浪人生活を過ごした慶大生と明大生が、

Yのことは何がなんでも記録に残すべきだ」

と言うものですから。

なぜなら、

「とんでもなくすごいことだから」

と。

何がすごいって?

このへんに住んでいる子なら、Yが通っていた県立N高校(仮名)がどんなレベルなのか、どのへんの大学に進学するのが普通なのかはみんな知っています。

ごく稀にしか、MARCHには合格する子はいません。

 

N高校 卒業後の進路状況(20203月卒業生)

合計

大学進学

146

短大進学

22

専修/各種学校

99

浪人/予備校

22

留学/留学準備

就職・その他

16

 

そんな高校の、成績は真ん中より遥か下の、筋肉な彼こそが、あのYでした。

しかも、もうちょっと早く塾に来てくれればいいのに、彼がやってきたのは高3。引退試合が終わってから。夏休みなんかとっくに始まっていました。

 

Yと同学年と1つ下の子たちは、Yの学力が当初どれくらいだったか、みんな知っています。

haveの過去形はhavedであり、takeの過去分詞はtakedなんだそうです。

もちろん、Do she busy? という英語を書いて何一つ憚ることはありません。

漢字なんか、もちろん書けません。

方程式なんか、もちろん解けません。

合格してからですが、Yと同学年の塾の子たちは、ビ〇ギャルを比較対象に持ち出して、彼を「ホンモノ」と言っていました。(すごい失礼)

「だって、ビ〇ギャルは進学校の底辺でしょ? Yはホンモノ(ものすごく失礼)ですよ。進学校の底辺が慶應に入るより、ホンモノ(失礼すぎる)が青学に入るほうがはるかにすごいですよ。Yのことはブログに残すべきです。」

もちろん、私個人はビ〇ギャルの物語に感動し、本も買いましたし、ビ〇ギャルの通っていた塾の先生を尊敬しています。高校受験を経験していない中高一貫の子が、いざ大学受験をするのがどれだけたいへんかも、よく知っています。

でも、それを補って余りあるくらい、Yのインパクトがすごかった、ということなのです。

 

ですからまあ、当然といえば当然なのですが、Yは早々に根を上げました。

まだ夏休みだったかなあ。入塾して1か月も経たないうちに彼は言いました。

「推薦にする」と。

当然です。彼を責める気なんか毛頭ありません。

小学校のころから筋肉ばっかりやってきて、突然受験の世界に放り込まれ、塾の同学年の子たちはそれなりの進学校で、自分は中1の英作文なんかやらされて、それすらできなくて、自分がどんなにホンモノなのかを目の当たりにしたんです。

休まず塾に来るだけ偉いですよ。

私だって、中1に満たない学力しか持たない高3Yが、受験に耐えられない可能性は高いと思いました。

でもですね、彼のお父様が、それを許してくださらなかったのですよ。

「お前は、筋肉も結局中途半端。今まで何一つ成し遂げていない。ここで踏ん張らなければ、お前はたぶん一生、何もできない人間になる。浪人してもいいから、目標を設定して、受験して合格してみろ。それが嫌なら、働け。」

なんて立派なお父様だろう、と私は感動しました。

が、そう言われて苦渋の表情を浮かべるY、それまで「推薦にする」と言っていたYを鑑みれば、きっとお父様のおっしゃる通りなんだろうな、と、付き合って日の浅い私も思いました。

目標は、実は教師なんだって。GT〇ですな。

でも、お父様がおっしゃるにはFランク大学ではだめで、ちゃんと勉強しないと入れない大学、というのが条件。

私は一人でやる気に満ち、Yは俯いていました。

 

まず私は、科目を絞ることを提案しました。できれば、2科。

残り時間を考えて、社会は世界史。あとは現代文か、英語。

世界史+現代文だと受験校が少ないので、浪人することも考慮に入れると、世界史+英語が現実的でしょう。現代文、できなかったし。

英語は、単語+熟語+文法に絞り、そのかわり徹底的に繰り返す。

自習は、世界史と単語と熟語のみ。ひたすら暗記の日々としました。

 

こうして言うは簡単ですし、ある程度の進学校の生徒なら嫌々ながらもなんだかんだやることです。

でも、Yですよ。

ただ暗記しているだけでも、大きな背中が小刻みに震えだすのです。

何を覚えているかって?

he his him his とか bring brought brought とか 古代文明とかですよ。

「つらい」

Yはときどき、そう漏らしました。

そして、たった1時間自習すると、

「帰ります!」

ドヤ顔でさっそうと退出しました・・・・・・



 出典 彼岸島48日後 コミックス第26巻より

(つづく)

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