2017年9月8日金曜日

数学について その7



前回、「数字を自由自在に操作できる」ためには、「逆引き九九」の他に、「補数」の習得も必要だ、と申しました。
そしてそのいずれも、小学校1~3年生で習ったはず、と申しました。
ですから、小学校低学年からしっかり勉強すべきだ!という結論は、あながち間違っていないように思えます。

しかし私は以前から、早期教育には反対の姿勢でした。
今でも、その意見には変わりはありません。
なぜなら、テクニック面に限っては、早期に教育しても、中学生になってから教育しても、その実に変わりはないと思っているからです。
なぜそう思うか?
問題は、「教育」という言葉の定義にありそうなのです。
私だって、たとえば小1の子が自ら望んで、「さんすうっておもしろい。もっともんだいだして!」というのであれば、いくらでもつきあってあげるべきだと思います(子どもは飽きるのも早いですが・・・)。
しかし、子どもの興味とは反対方向に、無理やり逆九九や補数の問題ばかりやらせるのは、かえって害だ、と以前から申し上げているつもりでした。
では、うまく誘導すれば? パズルみたいに遊びにしてみては?という意見も聞こえてきます。
私も、それで子どもができるようになるなら、ぜひやってみたいと思っています。
そういうことをやる教室もたくさんありますよね?
では、そういうことをやっていた子たちが、全員、将来、大学受験で数学を使えるレベルになるのでしょうか?
データがあれば見てみたいので、ぜひ教えてください。
嫌味とか挑発ではなく、データは主観を排除するので、私の主観が間違っていたら正していただきたいのです。
よろしくお願いします。

さて、早期教育については、Amazonで3週連続1位をとったという「学力の経済学」(中室牧子著)に興味深いデータがあります。
この人は経済学者で、学者ですから、研究にはデータを使います。
教育関係にはデータが少ないのですが、この先生はとても多くデータを紹介してくれています。
その中に、部分的ではありますが、面白いデータがあったのでご紹介します。
それは、「人的資本を投入するには、子どもが幼ければ幼いほど、社会的な収益率が高くなる」というデータです。
人的資本とは、この場合、子どもにかける「人」の手間暇です。
つまり、子どもに「人の手」をかければかけるほど、「社会的な」収益率が高くなるらしいのです。
社会的な収益とは、その人の稼ぐお金が増える(国家にとって税収が増える)だけにとどまらず、犯罪率が低い(国家にとって刑務所や裁判でお金がかからない)、生活保護の受給率が低い、など、国家の収入が増えて国家の支出が減る、という意味です。
個人としてのメリットデメリットではありません。
また、幼児教育については、幼児教育を施されたグループと、施されなかったグループとで、8歳までは差があったものの、教育を止めてしまえば、8歳から先はIQに差がなかった、というのです。
ここに限っては、IQ=学力、と考えてよさそうでした。
さあ、ちょっとわかりにくくなったのでまとめます。

・「人的資本」をかけるのは早ければ早いほど、「社会収益率」が上がる。
・「幼児教育」を受けても受けなくても、「8歳から先の学力」に差は出ない。

中室先生は、私が言いたかったことを見事データにしてくれました。
さすが学者の先生です。
大切なのは、「人の手」です!
人の手をかければ、高い学力の子になるというわけではなく、きちんとお金を稼いで、犯罪に走らない人間に成長する可能性が高まる、ということです。
ですから、「幼児教育」は、内容よりも「人」が手間をかけるかどうか、が決め手になります。
この点、よくよくご注意ください。
(詳しくは、「学力の経済学」(中室牧子著)をお買い求めください。)

さて、しかし、「早期に」人の手をかけたほうがよい、という意見に対して、ちょっと考えさせられたことがあります。
それは、受験生たちの成功・失敗に、「早期」に関して一つの傾向があることです。
・ウチの塾には、高校から入るより中学から入った方が伸びやすい。
・入塾時には少ない授業で後から増やすより、入塾時にたくさん授業を受けて受験直前期に授業を減らす子の方が、受験で合格しやすい。
というものです。
これは、「早期に」にとても通じるものがあります。
入塾初期(早期に)からガシガシやって後で減らす方が、その逆(入塾初期は授業数が少なくて後から増やす)よりも、成績の伸びがよいのです。
このことは高3生を例に考えるとわかりやすい。
高3生が春と夏にあまり勉強せず、冬期講習でものすごくたくさん勉強したとして、間に合うと思いますか? 
いくらたくさんやったって、普通はもう手遅れです。
つまり、高3は春や夏、せいぜい秋までにガシガシやるしかない。
もっと言えば、高3より高2、高2より高1、欲を言えば、先にも申し上げた通り、数学を受験科目にしたいならば、中2か遅くても中3には入塾してほしい。
理由は、中2と中3の数学ができなければ、大学受験の数学は絶対にできないからです。
ドラゴン桜だって、中学の数学からやり直して、しかもけっこうな時間をかけています。
中2と中3が、数学ができるかできないかの大きな分岐点になっているからです。

ここで、先ほどの「幼児教育」を鑑みますと、早期がよいといっても8歳になれば学力の差が無くなってしまうのだから、小3までは「学力のための塾」は行かなくてもいいでしょう。
効果があるのは小4から?ですかね。進学塾は小4からが多いですし。
しかし、大学受験で数学を使うためには、ギリギリ遅くていつから塾に行くのがいいか?と問われれば、今まで申し上げたすべての理由から、ズバリ「中2」と自信を持って断言できます。
次いで「中1」、「小6」です。
「中3」からでは、数学は苦しいかも?なのです。


つづ



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2017年7月25日火曜日

数学について その6



前回、数字を自由自在に操る、というお話をしました。
前回はかけ算のお話でしたが、このことは足し算引き算にも言えるので、少し補足します。
みなさんはこの式、筆算しますか?

1000-99=

答えはもちろん901ですが、これを筆算する中学生は、私の感覚だと7割くらいに上ります。
5段階評価で4を取るような子でも、思わず?筆算してしまうのです。
暗算でやる場合は、

99を100+1に分解して、1000-100+1とする方法

99に何を足すと1000になるかを考える方法(99に900を足すと999だから、あと1を足せば1000になる、など)

などが考えられます。
このことは、補数(補ったらある数になる数。例えば、66の100に対する補数は34です)の考え方ができるようになるとよく理解できます。
理解できます、とは申しましたが、実はこの補数の考え方、小1でみんな学習しているのです。
「足したら10になるかず」というやつです。

7に何を足したら10になるかな? 答えは3だよ。

というもの。
なのに、小学校1年生から習っているに、先の問題で「99」という数字にピンと来ない。
そんな中学生が7割もいるのです。
確かに、筆算だと計算間違いが減る、と思うかもしれません。
しかし、筆算では繰上り・繰り下がりや、桁、単純な足し算・引き算のミスを犯しやすくなります。
加えて、筆算では作業に夢中になって答えの妥当性(答えの妥当性については、別の機会にご説明します)がおざなりになることもあります。
暗算では、1000-99は900くらいになるだろう、という妥当性のもとに計算し確認しますが、筆算だとそのことを忘れてしまう。
とくに小数になると顕著で、ありえない桁数になることも、中学生にはしばしば見られます。
さらに、繰り下がりのある引き算では、20までの数に対する補数を、暗記するくらい練習するとよいでしょう。
8の17に対する補数は? 9です。これが、すなわち引き算の答えになります。
55-18などの計算では、8の15に対する補数7を一の位に書き、十の位は繰り下がったので4-1の答えである3を書きます。
数学のできる子はこれを瞬時に暗算できるのに対し、普通の子はこれを筆算しないとできません。

数学の関門その2としてお伝えした、「数字を自由自在に操作できる」ためには、「逆引き九九」の他に、「補数」の習得も基本として必要だと言えるでしょう。
いずれも、小学校1~2年生で習うことだったのですね。


つづく



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2017年7月13日木曜日

数学について その5



それでは、次の問題はどうでしょう。

次の式を因数分解しなさい。 
x+14x-32
  

上の問題は、-32の部分は前問と同じですが、xの係数が-4から14へと変わっています。
これを解くためには、かけて-32、足して+14になる数字の組み合わせを探します。
答えは16と-2です。
よって答えは、
x+16)(x-2)
となります。
この問題になると、解ける子の割合が少し減り、解くスピードも少し遅くなります。
理由はもうお分かりだと思いますが、かけて-32、足して+14になる数字の組み合わせが、九九にない数字だからです。
これはまだ数字が小さいのでまだできる子が多いのですが、

x-13x-48

x-14x+95

x+11x-102

となると、素因数分解を始める子がいきなり増えます。
九九にない数字の組み合わせですし、大きな素数の倍数もあるので、無理もないと思えます。
答えは、上から
x-16)(x+3)
x-19)(x+5)
x+17)(x-6)
となります。
私たちも無理な子には素因数分解をさせますし、みんながみんなこれらを即答できるべき、とも思っていません。
しかし、大学受験で数学を使えるかどうかは、このあたりにも関門があります。
ではどうすればいいのか?
20までの倍数を覚えればいいのか?(インドでは20×20までの九九のようなものがある、と聞きます)
いえ、違います。
その方法では、では23の倍数が出たらどうなるのか?31の倍数は?となり、きりがありません。
数学は、これも後述しますが、できるだけ暗記をしないよう努めなければなりません。
ではどうやって対応するのか?
それぞれ考えてみましょう。

x-13x-48

について、まず、かけて-48、足して-13になる数字の組み合わせを考えます。

考え方(ご参考)
48=6×8だが、6と8をどう足しても引いても13にはならない。
よし、6×8 を 3×16 とか 12×4 とかしてみよう。

・・・ここがキモです!
48=6×8 を 48=3×16 や 48=12×4 とする能力。
なんで?とお思いの方も多いのではないでしょうか。
事実、中学生でこの式の変形?を理解して「実践」できる子は、10人中2~3人いるかどうかです。
48=6×8 の6を2×3と考え、瞬時に6から切り離し8にかけてしまうのです。
ゆっくり式で説明すると以下になります。
48=6×8
  =2×3×8
  =3×2×8
  =3×16
これを、頭の中で瞬時に行う子が、中学にいるのです。
多くの子が素因数分解を使うか、多少できる子でも1×48=48、2×24=48
・・・と時間がかかる方法で解く一方で、瞬時に回答する子がいるのです。
48=6×8 を 48=3×16 に変えることは、見た目はそんなに難しいことではないですし、理解はできるでしょう。
学校では小3で習いますし。
しかし、それを実践で使えるかどうかとなったときに、「6を瞬時にかけ算の形にして一方の数字をもう一方の数字にかける」という発想ができるかどうか。
そういう訓練をしようと思うかどうか。
考え方を面白い、便利だと思えるかどうか。
まさにそれが、高校でも数学に困らないかどうかを決めるひとつの関門だと、私は感じるのです。
なぜなら、これ以外のやり方では時間がかかるという点が一つ。
もう一つは、数字を自由自在に操作してそれが楽しいと思えることこそ、数学を武器にできる才能だと思えるからです。

話は少しそれますが、昔、勉強があまり得意でない子がいました。
でもその子はマージャンが得意で、点数計算が瞬時にできるんですね。
マージャンには親と子という立場があるのですが、親の点数は子の1.5倍です。
その子は、勉強は不得意なのに、その1.5倍の計算が瞬時にできるんです。
どうするかって?
1.5倍というのは、ある数の半分をその数に足す事なんです。
具体的には、
2600×1.5260013003900
とします。
方法を知ること、納得すること、それを便利だと思うこと、そして訓練することで、勉強が得意でない子も、これくらいできるようになります。
まして、数学を大学受験で使おうという人が、数字を自在に操れなくてどうしますか?
異論はあるかもしれませんが、私は数学ではできるだけ筆算をしないほうがよい、いや、むしろ筆算をしたら負け、くらいに思っています。
筆算をするときには「面倒くさいなあ」と思っています。
でも、数学の苦手な子は、中学生や高校生になっても、32÷2を筆算します。
15×3を筆算します。
これでは、受験で数学を使えるはずがないのです。
だって、時間もかかることながら、数の性質(倍数や約数など)もわかっていないことになるのですから。


数学の関門その2 
「数字を自在に操作できること」



つづく





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